微妙なバランスを保つ全方位外交 6

指摘するところですが、中国内部の経済と特区経済とが当初の思惑のようには結びつきません。


むしろ特区経済が孤立的に外部の香港経済に吸収され、ひいては世界経済との依存的な結びつきを強めるという傾向を見せたことにありました。


・・・その結果、特区を抱える広東、福建などの諸省全体が香港をセンターとした外部世界経済に引きつけられて中央の統制から外れる結果になり、自立的な方向を強める結果になったのです。


それでも、かりに香港が中央政府の強力な主導下に置かれているのなら、むろん香港に吸収された特区および広東、福建など華南地域も間接的に中央の統制下に入ることになります。


そのため、その自立化傾向は起きる余地がなかったのです。


しかし、香港は元来、中国からの亡命者によってできた国際都市として、一貫して反北京的性格を濃厚に持ってきました。


さらに89年の天安門事件によって香港のこうした傾向は、一時、いっそう強まる傾向すら見せました。


1997年の中国への返還を前にして、香港は現在、若干落ち着きを取り戻しつつあるとはいえ、依然、反中央色を弱める様子はなく、今後、中央が香港をその統制下に置けるという保証は必ずしもありません。


こうした情勢下に浦東地区開発を従来の特区と同様のものとして推進しても、むしろ中央政府の統制力を弱め、単に新しく地方の自立化傾向を強める結果しかもたらさないことは明らかだったのです。

微妙なバランスを保つ全方位外交 5

こうして同月15日には中国の約8億ドルにのぼる対ソ商品借款が調印され、ソ連も中国に1958年以来、34年ぶりに軍事技術供与を復活する意向を示しました。


中ソ間の友好関係は、さらに5月の江沢民総書記の訪ソによって正式に確認されました。


むろんここでも、中国は米ソ関係の悪化を決して望んではいません。


米ソ関係の破綻は、かえって中国を戦争に巻き込む危険性を増大させるからです。


しかし、その一方で、ソ連が保守派の影響下に社会主義イデオロギーを取り戻す方向に向かうこと、そのことによってアメリカとの一定の対立要因を保持することを望んでいることも否定できません。


実際、中国の対ソ接近はソ連軍部が湾岸戦争勃発直前の91年1月13日に、リトアニアの首都ビリニュスにおいて「血の日曜日」といわれる武力弾圧事件を引き起こしました。


それ以後、ゴルバチョフ政権に対する軍部保守派の影響力が強まったことを好感したためと見られます。


・・・もっとも、その後、ゴルバチョフ大統領は4月の訪日を経て、再びその針路を改革派寄りに変え、ロシア共和国最高指導者のエリツィン(91年6月、同国大統領に当選)とも急接近を開始しているといわれます。


しかし、それでも中ソの接近に基本的な変化はないと考えてよいとされていました。


むしろ中国が恐れているのは、ソ連が連邦分裂や経済危機などの複合的な危機が深化して瓦解し、アメリカを中心とした西側諸国の援助に一方的に頼らねばならなくなる状況が生じることです。


あくまで、ソ連が対米的に潜在的にでも軍事対抗力として存在し続けることこそ、中国にとって戦略上必要とされる条件だからです。

微妙なバランスを保つ全方位外交 4

たとえば隣国である日本がアメリカとの間で貿易摩擦を中心として種々の矛盾を抱えていることは、当然、中国の戦争回避の努力にとって無視しえない条件となってきます。


1991年5月ごろから聞かれるようになった「日本の政治大国化を黙認する」との中国の半公式的見解も、明らかに日本との接近を当面の戦争回避のための外交戦略から重要視しはじめたことを示すものと言えるでしょう。


・・・ただし、ここでも中国が日米関係の破綻を望んでいないことは明らかです。


日米関係が緊張と協調の中間で揺れ動いていることこそ、中国がジャパン・カードを引くことができるための不可欠の条件となるからです。


これとまったく同様の理由から、東欧激動以後、とりわけ90年2月のソ連共産党中央委員会総会の一党独裁制放棄の決定があってのち、一時冷え込んでいたソ連との関係も、91年3月に入って急速に修復されるようになりました。


ソ連は当時、軍事的にアメリカに大きく差を開けられていました。


しかも経済的に疲弊の極にあるとはいえ、なお現在、軍事的にアメリカに対抗しうる事実上唯一の軍事強国であることは誰もが認めるところです。


この限りでソ連・カードは中国にとってなお引くに足るものだったのです。

微妙なバランスを保つ全方位外交 3

・・・こうした認識にもかかわらず、中国指導部の見解は、アメリカには単独で覇権を確立するほどの力量はないと見なす点で一致していました。


アメリカ経済の基盤が脆弱で日本を含む他の西側同盟諸国の助けなしには、その強大な軍事力も発揮できないと見るからにほかなりません。


・・・つまり相対的に経済が軍事を制約しうる限り、経済大国である日本、あるいはドイツを含むEC(欧州共同体)などもアメリカに一定程度の影響力を行使しうると見なすわけです。


この意味で、軍事に加えて経済など非軍事的な影響力を加えた総合的な国力という尺度で見れば、依然、世界は「多極化」への方向をたどっているということになります。


しかし、その場合にも「多極化」という概念は、かつて宙郷が88年に世界構造を非軍事化への方向にあるものと楽観してこの概念を用いたのとは違うでしょう。


あくまで軍事的意味合いを中心として用いられていること、それほどに中国がアメリカの軍事的脅威を強く意識していることを忘れてはなりません。


さらに世界がこうした多極構造をなしている限り、中国にはジャパン・カードもEC・カードも、さらにはロシア・カードも引くことができることになります。

微妙なバランスを保つ全方位外交 2

第三に、武器装備のハイテク化は、中国の経済力・国力でも十分達成しうるという信念を持つべきこと。


第四に、ただし先進諸国に対抗しうるほどの武器装備の近代化・ハイテク化を達成しうるには相当程度の時間が必要であり、その間には戦争を回避するためのあらゆる手段を講じるべきこと。


第五に、にもかかわらず、その間にも中国が強いられて戦争に巻き込まれる危険性はあり、それゆえ弱体な装備で優秀なハイテク装備を持つ敵を迎え撃つ戦術戦略を用意すべきこと。


・・・などの主張が読み取れるでしょう。


こうした指摘からわかるように、現在の中国指導部は極力自国が戦争に巻き込まれることがないよう危機回避に努めようとしています。


たとえば、それは実際にはアメリカを最も軍事的に危険視していながら、そのような姿勢をあからさまにして対米関係を悪化させ、戦争の危機を増大させることを恐れています。


そのため、むしろ対米的に柔軟な外交姿勢を前面に押し出すといった展開を示すことになります。


それはすでに湾岸に際して、中国が決してアメリカを名指しでは批判せず、また協力もせずという中間的態度を保持し続けたことにも示されています。


当然のことながら、湾岸戦争後にはこうした配慮も手伝って、「大三角関係」という刺激的で冷戦的な言葉を用いることも少なくなってきました。

微妙なバランスを保つ全方位外交

「いまは比較的長期にわたって戦争を発生させぬようにし、その間に精力を集中して(工業、農業、科学技術、国防の)4つの近代化建設をやり遂げること、これが全国人民の願いである。


だが、軍人としては戦争の脅威に対して常に高度の警戒心を持ち続けねばならない。


国家経済の力量の増大につれて、わが軍の武器装備も徐々に発展させることができよう。


とはいえ、ある種のハイテク兵器はわが方にはなく、相手にはある。


当面、装備において劣るわれわれが、装備に優れた相手にどのように打ち勝ちうるか、この点を追求するには、ハイテク兵器の性能と特徴そして弱点を理解しなければならない」。


・・・この文章には、現在の中国指導部、とりわけ軍部が置かれている苦渋に満ちた立場が、鮮明に反映されています。石塚孝一氏によると、具体的には、第一に、脱冷戦の緊張緩和の時代にも、中国が戦争に巻き込まれる危険性は決して減じていないこと。


第ニに、現状のまま、もし中国が湾岸戦争のようなハイテク戦争に巻き込まれるなら、装備に劣る中国には本来、とうてい対抗すべき力はないこと。


ということがわかります。

冷戦後の国際問題 3

報告はこう述べていました。


「いま覇権主義と強権政治が頭をもたげつつある。


国際情勢はいよいよ激動の様相を深めている」。


・・・ここについに、軍事的な警戒心が前面に現れたことがわかるでしょう。


このとき、ハイテク産業の育成発展という既定の戦略は、ある氏が88年に述べたような単純な経済的競争の意味合いに止まることなく、はっきりと軍事的意味合いを帯びるようになっていったのです。


1991年5月25日付の『解放軍報』は、劉氏署名の論文を載せています。


劉論文は次のように言います。


「米ソ対立が緩和されたからといって、世界が太平になったと見なしてはならない。


またわが国の国家経済の力量に限界があるからといって、当面、国防上必要とされる要件を満足させることは難しいと見なして、近代的軍事を指揮面から鍛え上げることに情熱を失うことがあってはならない」。

冷戦後の国際問題 2

第四に、しかしながら世界は目下、依然として多極化への方向をたどりつつあり、アメリカのこうした姿勢は他の国々との摩擦を高めざるをえないとします。


現に中東地域においてもアラブ対イスラエルの根本的矛盾の解決にいっそう迫られるようになりますが、これを解決する能力はアメリカにはないのです。


第五に、湾岸戦争の軍事的勝利によっても、双子の赤字に代表されるアメリカの経済的危機は克服できないということ。


また、日・米間、欧・米間の種々の摩擦が引き続きアメリカの足を引っ張り、最終的にはアメリカの単独覇権的な世界戦略は実現することができない・・・といわれていました。


これらは『国際問題研究』などに書かれていたことです。


・・・いずれにせよこの時点に至って、世界が多極化に向かいつつあるとの認識はなお変えないものの、それゆえにこそアメリカの単独覇権への意図がかえって、世界とりわけ中国を含む第三世界に、軍事的緊張を引き起こすとの認識に到達したわけです。


・・・このような認識は、91年3月25日の全人代における李首相(当時)の報告にも現れていました。

冷戦後の国際問題

1991年に入って1月17日に湾岸戦争が本格化。


しかも結果的にイラクが大敗しアメリカの世界戦略が功を奏するに至って、ついに中国指導部の世界認識も大きな転換を見せるようになりました。


転換後の中国指導部の世界認識はほぼ次のようなものとなっています。


すなわち、第一には、目下、アメリカは脱冷戦後の「新世界秩序」の形成にあたって、みずから世界で唯一のスーパー・パワーとして指導的な地位に座ろうとしていると見ています。


第ニに、アメリカは自国の強大な軍事力を唯一の支柱とした国際安全保障機構を樹立しようとしており、少なくとも中東地域においては、この構想が固められつつあるとしています。


第三に、アメリカは自国の価値観、とりわけ西洋式の「民主制度」と「市場経済」を至上のものとして全世界に押しつけることで「新世界秩序」の形成にあたろうとしているとします。


東欧とソ連はこのアメリカの戦略によって体制的な変化を引き起こしています。


また中国を含む第三世界に対しても、経済援助や経済協力などを取り引き材料として同様の価値観を押しつけようとしていると見ています。

為朝伝説

この間沖縄ツアーで本島に行ってきました。


そのときに、地元の人から為朝伝説という話を聞いたのでここで紹介したいと思います。


為朝の琉球渡来説がもっとも流布し、史実として信じられてきたのは、当の琉球においてでした。


琉球では、『古事記』や『日本書紀』に相当する最初の正史『噛雌憧鍬』(1650年)でその説がとりあげられ、以後の史書もそれにならってきたからです。


それらの正史では、記・紀の神代にあたる時代を天孫氏の御世とし、神武天皇にあたる舜天王から琉球王統がはじまるとしています。


そして、その舜天は、清和源氏の後喬「鎮西八郎為朝公ノ男子也」としているのです。


その由来は、ほぼつぎのようなものです。


伊豆大島を脱出した為朝の舟は、潮流に流されて琉球にたどりつきました。


ですから、これまで流きゅうと書かれていたのを、流れに従って求めた島ですから、流求と書きあらためるようになったのです。


(これはしかし、中国の史書が琉球のまえには流きゅう、流求と記していたことからのこじつけでしょう。)

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